蜜柑援農

JOURNAL / 「これからの選択肢に出会えた」 シェアハウスに同居する援農男子

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「これからの選択肢に出会えた」 シェアハウスに同居する援農男子

「みかん援農」は、みかんの収穫時期がピークとなる11-12月を中心に、全国の若者たちと和歌山県海南市下津町の農家さんたちをつなぐプロジェクトです。

滞在期間中の住まいとして、農家さんの離れや近隣地域の古民家などをお借りし、毎年70名を超える応募者からタイプが合いそうな顔ぶれを1棟あたり2-8名ほどに振り分け、シェアハウスをご案内しています。

援農に関わる農家さんと援農者さん、それぞれを取材するこのインタビュー。5組目は、企業さんの元保養所を用いた最大8名滞在のシェアハウスに同居する大橋 拓真さんと上原 唯楓さんです。援農が終盤に差し掛かった2023年12月下旬にお話を伺いました。


ー 最初に、お二人のプロフィールから教えてください。

拓真さん:出身地は大阪なんですけど、今は普段、神奈川に住んでいます。2023年の3月まで東京にあるIT企業でサラリーマンをしてました。年齢は28歳です。援農は今回がはじめて。老夫婦の農家さんのところにお世話になって、3週間が経ったところです。

唯楓さん:僕は神奈川出身で21歳です。普段はフリーターとしてクラフトビールのブルワリーやバーでアルバイトをしながら、アウトリガーカヌーの選手をしています。アウトリガーカヌーっていうのは、ハワイやタヒチとか南太平洋における海での伝統的スポーツのことです。去年はじめて援農に参加して、二世代で運営している農家さんにお世話になって、今年も同じ農家さんのお手伝いに来ました。

ー どういった経緯で「みかん援農」に応募したんですか?

拓真さん:唯楓と僕には共通の友だちがいて。その子が、毎年リピーターとして「みかん援農」に参加してたんです。その友だちと神奈川のシェアハウスで一緒に暮らしていた時期があって。その子が「みかん援農、めっちゃ楽しいよ!」と教えてくれたのが、僕らのきっかけです。

僕は当時、サラリーマンをしていたから「仕事辞めたら行ってみるわ!」とだけ言ってたんですけど、晴れて退職したので有言実行になりました(笑)

ー このシェアハウスでの暮らしはどうですか? ルールなどは決めていますか?

唯楓さん:農作業は体力仕事なので肉体的には疲れるけど、帰ってきたらシェアハウスに仲間がいるっていうのは、気持ちが解れていいですね。食事は全部自炊なので、このシェアハウスでは調味料や食材費はみんなで折半するようにしています。

拓真さん:あと、みんな米を食べたいから、炊飯器が空になったら最後の人が次の分を炊こうとか、火曜・木曜・土曜はみんなで鍋しようとか、その程度のルールだけですね。使った皿は洗うとかってモラルは守りつつ、でも誰かが疲れてそのまま寝ちゃったら代わりに洗ってあげようかくらいの緩さで、お互い持ちつ持たれつ心地よくやってます。

ー 「みかん援農」を体験した感想を教えてください。

唯楓さん:思い返せば最初の3日間くらいは、1箱ずつ運べばいいところを2箱一気に運ぼうとしたり、全力でがんばり過ぎてたなって思います。でも、農家さんたちと一緒に作業するうちに、無理なく続けられるペース配分がわかるようになりました。

援農が終わった後もお世話になった農家さんと関係が続いて、みかんを贈ってくれたこともあって、そういうやりとりが嬉しかったです。

拓真さん:僕も最初は張り切り過ぎていたので、農家さんの「ぼちぼちやろうや〜」って言葉が印象的でした。収穫繁忙期の農家さんは雨の日以外は全部働くし、なんなら雨の日も選果とか屋内でできることを休まずやるから、持久力が必要になる。年季の入った基礎体力が備わっているからこその言葉だったんだなって、思い知らされましたね。

僕が働いている農家さんは、ずっと下津町で働いて暮らしてきたじいちゃん・ばあちゃんだから、地域のことを何でも知っていて。興味深い知識だったり取るに足らない雑談だったり、一つ一つの情報がいいっていうより、この地域に根を張って暮らしてるんやなぁってことがよくわかって、その会話そのものが味わい深いです。

ー 想像と違ったり想像以上だったりして、驚いた出来事はありますか?

唯楓さん:みかん、すごくうまいっすね。神奈川のスーパーで買うより断然うまくて驚きました。下津町には蔵出しみかんっていう伝統的な貯蔵技術があるじゃないですか。このみかんが熟してもっと甘くなるのかって思うと、すごいなって感動します。

あと、援農者には季節労働で全国をめぐっている旅人が多くいて、日常生活ではなかなか出会えない人たちと会話できるのが新鮮で楽しいです。特にシェアハウスだと長い時間を共に過ごすから、深いところまで話が聞けていい。だから、来れる限りはまた来年も「みかん援農」に参加したいなって思います。

ー 昔は農業は敬遠されがちでしたが、今の若い世代は農業に関心があるんですか?

拓真さん:一次産業に興味を持ちはじめている人は多いと思います。東京で働く前職の元同僚に「みかん送ろうか?」って連絡したら「みかんの収穫してるんだ?いいなぁ!」ってリアクションがほとんどだったんです。

人口の多い都心部では仕事が分業化されがちで、自分の仕事が何に繋がっているかが見えづらい。一方で援農や一次産業はわかりやすい。援農は少子高齢化で人手不足に悩む目の前の農家さんの力になれるし、生産の現場を知ることで自分の物の捉え方も変わります。例えば、どこかでみかんを見かけたら、ヘタの切り口から「どんな人が切ったんやろう」って想像が膨らむ。暮らしの中で「人」の輪郭が浮かび上がるようになってきた。

僕はそういうことが、農業に関わるモチベーションになっていますね。

ー どのように農業に関わりたいなど、今後の予定はありますか?

唯楓さん:今お世話になっている農家さんが、自分たちのみかんを使ったクラフトビールづくりに挑戦していて。「僕が神奈川で働いているブルワリーと繋ぎますよ」とやりとりしているうちに、ただ繋ぐだけじゃなくて、もっと何か一緒にできたらいいなと思うようになって。今後のクラフトビールづくりに僕も携わらせてもらうことになりそうです。

クラフトビールは夏の需要が高いから、冬に需要があるみかんとの相性もいい。みかんのまま食べても美味しいけど、新たな美味しさの届け方が見つけられるといいですよね。

拓真さん:今後の予定は、僕自身が一番わからないですね。農家さんから「大橋くん、みかん農家とか興味ある? 来年も来てくれへんか?」って言われることがあって。後継者不足は本当に課題なんだって実感します。かといって、今まで大切に育ててきた畑だから後継者は誰でもいいってわけじゃない。そういう気持ちが伝わってくる。

だからこそ、援農で接点ができることはお互いにとって大きいですよね。実際に「みかん援農」をきっかけに移住して就農した友だちもいるし。僕はこれから先のことはまだ決まってないから、今ははっきり答えられない。だけど、数年後、自分の人生を考えた時に「みかん農家」っていう選択肢は、間違いなく僕の中で出てくるだろうなって。

これからの選択肢に出会えただけでも、今回の経験はいいものだと思っています。

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